海外文化・暮らし
ベトナムの宗教事情 タブーや生活習慣などを解説
ベトナムの宗教はとても多様。信仰心の篤さや生活習慣には個人差があるものの、昔から続く風習や縁起を重視する傾向があります。そのため、信仰に基づく言動が見られたら、できるだけ尊重することが大切です。
目次
ベトナムで多数を占める宗教
ベトナムの宗教は、大乗仏教、カトリック教、少数派の宗教群の3つに区分され、複数が入り混じっている傾向があります。
多数派のキン族が信仰する大乗仏教
ベトナムは54民族の多民族国家で、多数派を占めているのがキン族です。キン族が信仰しているのが大乗仏教。約80%の国民が大乗仏教を信仰しているとされています。しかしながら、葬儀や法事は儒教式であることが一般的で、道教のお寺にお参りすることも多いなど、信仰の方法はベトナム独自と言えるでしょう。
フランス統治時代に浸透したカトリック
フランス統治時代にベトナム全土に広がったのがカトリック系キリスト教です。ベトナム戦争が終わって厳格な社会主義が敷かれていたころ、過去の統治国の名残であるカトリックはひっそりと信仰されていました。ドイモイによる開放政策なども後押しして、信仰をオープンにする人が増加。現在は、ベトナム人口の約10%がカトリックとされています。
多様に存在する少数民族の宗教
ベトナムのなかでも南部はとくに宗教が多様です。クメール族はタイやミャンマーの影響から上座部仏教(小乗仏教)を、チャム族はヒンドゥー教やイスラム教を信仰している人が目立ちます。北部の山岳エリアに住む少数民族は、精霊を崇拝する独自の宗教を持っています。中部は、かつてチャンパ王国が改宗をしたこともあり、イスラム教信者が目立ちます。
ベトナム独自の宗教であるかまどの神様
ベトナム人は、信仰に基づく行動をとることが多々ありますが、そのベースにあるのが「かまどの神様」です。
テトに先立つ「かまどの神様の日」
ベトナムでは、旧正月にあたるテトをお祝いする習慣がありますが、元日の1週間ほどまえに家を掃除する、お供え物を準備する習慣があります。その理由が、旧暦12月23日が「かまどの神様の日」であること。かまどの神様は、女神1人と男神2人とされており、ベトナムで古くから伝わる言い伝えに由来する民間信仰です。
かまどの神様のストーリー
かまどの神様は、ティ・ニ(女性)、チョン・カオ(男性)、ファム・ラン(男性)の3名をめぐる逸話に由来します。ティ・ニとチョン・カオは夫婦で、深く愛し合ってしましたが、子どもができないことから別れてしまいます。自分の行為を後悔したチョン・カオは妻を探す旅に出ます。
食料とお金が尽きたときに、ファム・ランの妻となっていたティ・ニと再会。ティ・ニが前夫に食事を与えているときにファム・ランが帰宅します。とっさに前夫はかまどに隠れますが、それに気が付かずファム・ランがかまどに火をつけたため焼死。前夫を助けようとティ・ニも、妻を助けようとファム・ランも焼け死にます。
かまどの神様を信仰する方法
命を懸けた行為に感動した上帝が、3人を「かまどの神様」と命名。1年間の家庭の良し悪しを天に報告することを役目とします。そこで各家庭では、神様をお迎えするために、台所を丹念に掃除してお供え物を用意する風習が生れました。お供え物は、もち米、塩、茹で肉、団子入りスープ、炒め物、ハム、おこわ、果物、蓮のお茶、ザボンなど。桃などの花やフェイクの札束も供えます。
宗教上の理由から肉を食べないベトナム人も
宗教上の教えを厳格に守るため、肉をまったく食べない、あるいは特定の日だけ肉を食べないベトナム人が一定数います。
ビーガンのベトナム人の宗教
仏教徒、イスラム教徒、ヒンドゥー教徒、カオダイ教徒のベトナム人の一部が肉食をタブーとしています。ちなみにカオダイ教とは、ホーチミン市の北西にあるタイニン省で盛んになった新興宗教。仏教、キリスト教、イスラム教、儒教、道教、さらには世界の偉人を信仰する「なんでもあり」の不思議な宗教です。
ベトナム全土にあるビーガンのお店
ベトナムでは、宗教上の理由に加え、衛生状態や汚染に対する警戒心から、ビーガンとなる人も増えています。そのためベトナム全土で、肉の代わりに大豆、豆腐、キノコ類を使ったビーガン料理を提供するお店が浸透しています。通常は普通のカフェで、ランチタイム限定でビーガンビュッフェを提供するお店も目立ちます。
ベトナム人がビーガンだったら?
ベトナムでは、完全菜食ではないライトなビーガンが肉を絶つのは、旧暦1日、旧暦14日、旧暦15日、旧暦30日。1か月に4回のペースで肉を食べない日がきます。この日が過ぎたら、「精進落とし」として肉を含めた食事を思いっきり楽しむ習慣があります。仕事のあと食事や飲み会に誘うなら、肉を絶つ日が過ぎたタイミングを目安にするといいでしょう。
まとめ
ベトナム人の宗教は、日常生活のなかに根付ており、さまざまな宗教が入り混じった雑多なものです。そのため、信仰の違いから衝突が生じることは滅多にないという印象です。ベトナム人を会社で採用することになったら、宗教上配慮を要する点をあらかじめ聞いておけば、スムーズに迎え入れることができるでしょう。